2019年10月13日
天を遊くひかり
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氏神になって早一年と数ヶ月。
天界であって天界ではない隔離されたこの場所では生きている時以上に何をする事も許されない。
そんな生活に飽きを感じ始めた1026年11月。退屈な日々に一石を投じるかの如く、彼女はやってきた。

煌一朗「城奈久しぶり!!! 元気してた!!?」
城奈「あ、えと……」
日方「煌一朗煩い。城奈、困ってるでしょ」
煌一朗「えっ!? あっ、ごめんな!」
城奈「いえ……大丈夫、です」
煌一朗「ていうか、オレのこと覚えてる?」
城奈「はい。煌一朗さん……いや、獅子王百鬼様、ですよね」
煌一朗「そんな改まらなくていいよ。気軽に名前で呼んで!」
城奈「わ、解りました」
日方「もう僕の言ったこと忘れてるよね、獅子王さん?」

城奈……百鬼天遊子は、この空間に戸惑っているようだった。
どうやら『何もしなくていい』ことを理解出来ないらしい。
「大人になっても真面目なんだね」
日方は笑いながら、父親の元へと案内していた。
曰く、「兄さんも会いたがってると思うし、あの人何かと忙しそうだから、手伝ってあげたら喜ぶよ」と。
喜ぶ境吾は正直想像出来ないけど……オレも燐音が来てくれたら嬉しいし、そういうことなのかもしれない。

それから城奈は境吾と一緒にいることが多くなった。
境吾も……確かに表情が柔らかくなっているような気が、するような、しないような。
オレとしては境吾にもう少し外に出てほしかったから、城奈には感謝しなければならない。
……別に心配してるとか、そういう訳じゃないからな。
◇
──それから1ヶ月後。

美晴「涼耶と燐音が死んだ。今頃境吾が天へ連れて行ってるだろうよ」
煌一朗「……そっか」

美晴「しかし意外だな。涼耶はともかく、燐音は城奈を追いかけて氏神になってもおかしくなかったのに」
煌一朗「え、どういうこと? 確かに燐音は城奈に懐いてたけど」
美晴「色々あったんだよ、あの2人には」
煌一朗「何それ怖い。オレも祖母ちゃんみたいに下の様子が見れたら良かったのになあ」
美晴「やめとけやめとけ。……少なくとも、お前には合わねーよ」
◇

煌一朗「そこで日方がさー……」
城奈「……」
煌一朗「城奈?」

城奈「っ!? す、すみません!」
煌一朗「……大丈夫か?」
城奈「だ、大丈夫です……ごめんなさい」
その日を境に城奈は空を眺め、ぼんやりすることが多くなった。
戦いを共にした家族を失ったからなのか、なんなのか。オレには分からなかった。

日方「煌一朗は氏神になっても何にも変わらないよね」
煌一朗「え?」
日方「明るくて、人がよくて、感情豊かな童貞」
煌一朗「最後の必要ありました???」
日方「でも兄さんは変わったと思うんだ。昔から使命に一直線な人だったけど、あそこまでだったかというと、ねえ」
煌一朗「……言われてみると、そうかも……?」
日方「で、僕は分からないけど聖女様も多分どっか変わってるし、僕自身もおかしくなってると思うんだ」
煌一朗「日方はまあ……毒舌が酷くなったよな……」
日方「でも煌一朗はそういうの無いからさあ、凄いなって」
煌一朗「褒められるのは素直に嬉しい! でもなんで急にそんなことを?」
日方「城奈が最近おかしいって言ってたでしょ? それもその所為なんじゃないかって思ってね」
煌一朗「なるほど……日方は頭が良いな!」
日方「あくまで憶測だけどね。……だけど」

「もしその憶測が当たっていたら、大変なことになるかもしれないね」
◇

ある日、城奈が家から姿を消していた。
ここは隔離された場所。
下手に動けるはずが無いのに。

煌一朗「境吾!!」
境吾「……どうした」
煌一朗「城奈はどこ行った!? お前なら知ってるはずだろ!!?」
境吾「……」
「あの子が生きていた頃の……俺が死んだ後の話をしていた」
「髪を切った後の話。家族の話。子供の話。特に何もなく話しているだけ、だった」

「……急に。城奈は立ち上がって、空を見上げた。」

「それだけ言って、あの子は何処かへ行ってしまった」
「…………っ、」

なんで止めなかったのか。
そう投げかけることはできなかった。

境吾の背には火が煌めいていたから。

それから百鬼天遊子を、オレ達が見ることは二度となかった。
◇
境吾くんの氏神名は百鬼大文字。
使命は一族の魂を無事に送ること。
